ところで、一口に大学のブランディングといってもその端緒もいろいろあるようです。いくつかを紹介してみましょう・・
(1)明治学院大学
佐藤可士和氏を迎え2004年から2008年にかけてロゴ マークの刷新ほか、さまざまな取り組みが行われたようです。長いけれど、引用してみます。
「明治学院大学ブランディングプロジェクト」は、明治学院大学と社会の関係を深めるためのシステムであり、大学の知名度を あげることだけを目的とする、いわゆるPR活動とは一線を画します。
通常「ブランド」とは、一種の商品イメージのことであり、消費財やサービスを提供する企業とそれを需要する消費者の間に生まれる概念です。 大学も、基本的には、教育という”サービス”を、学生という”消費者”に提供していますから、各大学には社会的に共有されるブランドイメージが存在しま す。しかし、「商品一般のブランド」と「大学のブランド」には決定的な違いがあります。
「大学のブランド」の場合、サービスを提供する大学と需要する学生の関係のなかだけでブランドが成立するのではありません。社会というモメントも考 慮しなければなりません。なぜなら、大学の使命は、研究と教育を通じた社会貢献にあるからです。つまり、大学のブランディングでは、「その大学はどんな社 会貢献ができるのか?」という観点から、他大学との差別化を図ることがポイントになってきます。ほかの大学にない、その大学にしかできない社会貢 献。それをいかに世の中に伝えるかは、各大学にとって重要な課題です。そこがきちんと世の中に対してアピールできている大学は、「ブランド力」があると言 えるでしょう。
大学のブランディングにとってもっとも重要な契機はアイデンティティ (関係者によって共有され関係者の心を一つに結ぶ役割を果たすもの) です。それがなければ、大学は社会に存在感を示すことはできません。明治学院大学のアイデンティティは、1859年に来日して33年間にわたって日本と日 本人のために尽くした、本学の創設者であるヘボン (James Curtis Hepburn) の生涯を貫く信念に求めることができます。それは、新約聖書にある言葉「Do for others what you want them to do for you (人にしてもらいたいと思うことはなんでも、あなた方も人にしなさい) 」そのものでした。
“Do for Others”こそが、明治学院大学の学生、教職員、保証人、卒業生の心をひとつにで きるアイデンティティの役割を担うことができるのです。ですから、明治学院大学は”Do for Others”を教育理念として掲げています。
ところで、教育理念も、学生、保証人、そして卒業生という大学関係者自身がそれを自覚しなければ意味がありません。”Do for Others”をまず学内関係者のあいだに浸透させていく仕組みが必要でした。そのために生まれたのが、MGのロゴとイエローのスクールカラーでした。こ れをデザインしたのは、アートディレクターの佐藤可士和氏です。佐藤氏は、”Do for Others”という教育理念にふさわしいロゴをデザインし、カラーを選びました。
明治学院大学の学生は、白金校舎のパレットゾーンに掲げられている大きな垂れ幕やレストランのトレー、学生証や学生手帳など、学内のさまざまな場面 で、MGのロゴとイエローを目にしています。日々それらに触れる中で、”Do for Others”というメッセージに接しています。このようなプロセスをへて、いまやこの教育理念は学内の隅々まで浸透するようになりました。
学内だけでなく、同時に社会に対しても積極的に”Do for Others”というメッセージをロゴとスクールカラーに託して発信しています。明治学院大学がいま、教育の分野でおこなっている社会 貢献を、広告やウェブサイト等でアピールしようとしても、現代の情報洪水の中ではなかなか社会に受け入れてもらえません。しかし、このロゴとスクールカ ラーに”アイコン”の役割を果たしてもらえれば、明治学院大学の情報は社会に容易に受け入れてもらえるようになります。
まるで”アイコン”をクリックするように、明治学院大学 (Do for Others) にコンタクトできる仕組みが明治学院大学ブランディングプロジェクトです。この仕組みによって多くの人びとに明治学院大学の社会貢献を知ってもらうことが できるようになります。したがって、明治学院大学の社会的な存在感も高まります。ひとたびこのような水準に到達すると、社会は明治学院大学を意識し、明治 学院大学は社会を意識するという循環的な関係が生まれます。ブランディングプロジェクトは、明治学院大学の社会の関係を深めるシステムの構築を目差してい ます。
佐藤可士和氏がどのような方針で関わることになったのかは触れられていませんが、大学の社会的存在感という意識をイエローのスクールカラーに集約し ていく・・ということ方針を強く訴えておられるていることが伝わってきます。いわゆるCIとしてのブランディングの一例といえるかもしれません。大学のポ スターが一時、渋谷駅に貼られていたのを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
(2)筑波大学
筑波大学は、今年から一倉宏さんの協力の下に、新しいブランディングをはじめています。
TSUKUBA BRANDING PROJECT
TSUKUBA BRANDING PROJECTでは,スローガン“IMAGINE THE FUTURE.”を学内外に発信するとともに,メッセージソング“IMAGINE THE FUTURE”の制作に取り掛かります。
この歌は,学 生,教職員,卒業生など筑波大学の関係者の参加によって完成を目指します。
歌い手,コーラス,演奏者を募集します。
CD,ポスター,映像 の制作にも参加,協力してください。このプロジェクトにあたって,学内のワークショップ等も開催予定です。
2011年春に は,CDリリース,マスコミ発表を予定しています。
その売上益は,筑波大学基金“TSUKUBA FUTURESHIP”への寄付とします。IMAGINE THE FUTURE.
筑波大学は 「新構想大学」と呼ばれ,「開かれた大学」を開学の理念として生まれました。旧来の大学のありかたを反省し,「学際」そして「国際」化への「改革」を掲げ た,原点もアイデンティティもここにあります。その後の時代の流れをみれば,この理念の予見したものが,いかに先進的であったかがわかります。学際化,リ ベラルアーツ教育,産業と学問の連携,国際交流,留学生の受け入れなど,ことごとく時代の求めるところとなってきました。私たちは,この理念の先進性,先 見性を誇りに思うべきです。
あえていうならば,私たちは「伝統校」「名門校」の称号よりも,新しい,開かれた「先端校」「先進校」の理念を選んだのです。東京高等師範,東京教育大学 という伝統の誇りはいまでも私たちの内にありますが,東京を離れ筑波に地を得たとき,誓ったものは新しい「改革」と「挑戦」の理念でした。「筑波」とは地 名ではなく,その理念の代名詞と思うべきです。改革者は改革をやめず,開拓者は開拓をやめません。つねに,開かれてあること。みずからの改革をつづけ,時 代の矢印となること。筑波大学が目指すナンバーワン,オンリーワンとは,最も「未来志向」の大学であること,ではないでしょうか。世界と未来に向いた TSUKUBA CITYの中枢として。医学・体育・芸術もあり,肉体性と感性の領域まで含む人間理解と人材育成を目指す,真の意味での総合大学=UNIVERSITYと して。
筑波大学とは「未来へのフロントランナー」である,と,あらためて確認して,この新しい伝統のバトンを,絶えることなくリレーしていただきたいと思いま す。
筑波大学というものにおける「FUTURE」「未来」というメッセージが、一倉さんのことばを通じて強く伝わってきます。
一倉さんのメッセージの動画メッセージもありました。
「わたしたち卒業生は、筑波を去っても、ときどきTSUKUBAの夢を見ます」・・卒業生からのこういうことばを聴くと、他者であってもじーんとき ます。説得力があり、うらやましく感じます(それにしてもかっこいい白いイスですね)。
さて、もうひとつ、これは、ブランディングとは銘打っていませんが、非常に強いメッセージを感じたので、入学式の式辞をひとつご紹介しましょう。東洋英和女学院です。
入学式
新入生の皆さん、ご入学おめでとう。ご家族の方々もさぞかしお喜びのことと拝察いたします。受験生活を終わって、新しい大学での生活が始まろうとし ているこのとき、あれもしたい、これもしたい、と希望に胸を膨らませておられることでしょう。実はかくいう私も、この大学では新入生です。みなさんと一緒 に、大学の学風を学びながら馴染んでいきたいと思っています。ただ私の半世紀に亘る長い大学生活のなかで得た一つの経験を、この大学での最初の日に、皆さ んにお届けしたいと思います。
それは、こういうことです。色々な大学で、入学試験のときの成績と、四年間の学生生活を終わって卒業していくときの成績とが、どのように関わりがあ るか、調べてきました。ほとんど例外なく、両者の間には際立った関係はないことが判っています。つまり、入学試験の成績がとても良くても、卒業のときはさ ほどではないことも珍しくないし、入学試験の成績があまり優れていなくても、卒業のときは抜群な成績を収める例も多いのです。ところが、大学一年生の終わ り、つまり大学へ入って最初の一年が終わったときの成績と、卒業するときの成績の間には、かなり濃厚な相関関係があることが判っています。もちろん学業の 成績だけが、大学生活のすべてでないことは、申すまでもないでしょう。ただ、ここで判って欲しい大切な点は、大学へ入って過ごす最初の一年が、皆さんのそ の後の大学での生活にかなり大きな影響を持っている、ということです。その意味で、これから始まる一年という歳月を、特に大事にして下さるようお願いした いと思います。
さて、ご承知のように、この大学の設立の理念の基礎は、キリスト教の信仰にあります。そのことに期待をもっている方も、あるいは不安を抱いている方 もあるでしょう。無論ここが日本の大学である以上、皆さんも日本国憲法によって守られています。その第二〇条には、信教の自由がはっきりと謳われていま す。したがって、この大学でも、キリスト教信仰への強制的な勧誘は断じてありません。と同時に、信教の自由は、信仰を持つ人々の権利も保証しています。そ のことも忘れないようにしましょう。
ただいずれにしても、これからの国際化された社会と時代に生きていこうとする皆さんが、宗教に対して豊かな理解を持つことは、とても大切なことで す。
それはキリスト教に限りません。イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンズー教などはもちろん、様々な宗教が社会を造り、時代を造り、歴史を造ってきまし た。
そのことを無視して、社会と時代を、あるいは世界を理解することは不可能です。この大学は、学問を通じて、そうした宗教に関して理解を深めるのにと ても適した場所であると信じます。それは国際化社会を生きる人間として、必須の教養の一つであり、それを身に付けることは、皆さんの将来にとって大きな財 産になるでしょう。
一つだけ例を挙げましょう。今日は四月二日、信者の方はご存知ですが、実はキリスト教では「聖金曜日」あるいは「受難の金曜日」と言われる特別な日 です。私たちもですが、ヨーロッパや南米では、一般の市民がほとんど一日何も食事をしないで、キリストの十字架上の死を思いながら過ごします。教会のなか は暗い紫の色で覆われています。そしてあさっての日曜日、よろこびに溢れた復活祭がやってきます。聖職者の着る衣装もすべて目の覚めるような純白になりま す。復活祭は、クリスマスのように日が決まっていません。毎年暦の状態から決められます。今年は四月四日の日曜日となります。日本ではクリスマスは誰でも 知っていますが、ヨーロッパでは、復活祭はクリスマスよりももっと大きな社会全体のお祝いの日であり、またその前の四十日間は四旬節と呼ばれて、社会全体 が喪に服するような状態が訪れます。
イスラム教のラマダーン(イスラム暦の九月のことで、太陽暦とは少しずれています)もまた、似たような社会習慣です。この一ヶ月ムスリムは夜明けか ら日没まで食事をとりません。それが明けた三日間のお祭り(イド・アル・フィトルと言いますが)はまた、イスラム社会にとって、大きな喜びの日々になりま す。
私たちは、日本にいると、なかなかそうしたことに理解が行き届かないままに過ごしてしまいます。しかし、日本から一歩外へ出て、異文化に入ったと き、こうしたことがらを弁えておくことは必須になるのです。
このことは、実は単なる教養を超えて、人間の最も核心的な問題と関係しています。それは、他者、自分とは違った人、あるいは自分とは違った文化、考 え方を知る、ということです。自分とは違ったものに出会い、それを理解しようとするのは大変なことです。それは時としては、自分にとってあまりにも当然で あり、振り返ってもみなかったことを疑わなければならないからでもあります。そして他者を知ることは、結局のところ自分を知る、自分を見つめ直しつつ前進 していくことになります。みなさんの学部は国際社会学部です、国際社会では常に異文化との接触にさらされます。その時自分の常識、自分の価値観に拘ってい たのでは、他者の理解は不可能です。
そして、大学というところは、まさしくいろいろな意味で、他者との出会いの場なのです。というのも、大学で出会う学問は、これまでみなさんが受けて きた教育の方法とは少し違って、多くの問題に唯一の正解がないからです。さまざまな考え方、さまざまな可能性が提示されるのが、学問の姿なのです。そのな かから自ら選択をすることが求められます。それはもしかすると、今までの自分が突き崩されるような体験を伴うかもしれません。実際私も、五十五年前大学で そうした経験を重ねたことを思い出します。
もう一つ言わでも、のことを付け加えます。皆さんは今日から「生徒」ではなく「学生」になりました。年齢としては未成年のかたが大部分でしょうが、 学生という立場は、一人の自立した人間として、自分の行動に責任を担わなければならない存在です。大学のなかではもちろんのこと、外でも、そのことが社会 から当然のこととして期待されています。この東洋英和女学院大学というコミュニティの一員としての自覚を持って行動してください。そしてこのコミュニティ から受動的に何かを受けとろうとするばかりではなく、このコミュニティを維持し、発展させていくために一人一人が何ができるかを考えて、積極的に行動して ください。私たち教職員は、そうしたあなた方を、力をつくして助け、支えることを約束します。
2010 年4 月2 日
東洋英和女学院大学 学長 村上 陽一郎
このくらい平易なことばで、しかも具体的に強く語られると、大学というものを自分自身の中で自覚化できるのではないか、と感じました。他者を感じる 社会人としての意識・・大学生になりたての身にとっては、なかなか聞く耳をもちえないのかもしれませんが、このようなことばを入学時にきいていたらずいぶ んとその後の人生が違っていたのではないか、と思ったのでした。
大学のブランディング・・さまざまですね。実際のところ、このままいけば、10年から20年で何割かの大学が消滅するかも・・という話さえききます。また 一部の企業からは、世界の大学生の中で日本の大卒がいちばん力が不足している・・というわれる現実。
つづきはこちら↓
http://wp.me/sMonj-daigaku
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