2010年7月20日火曜日

哀しい一週間~断絶への航海(J・P・ホーガン)

この一週間、僕のこころのまわりに訃報があいついだ。

スタッフのひとりの御尊父が急逝された。不条理な気持ちにとらわれた。危篤ときいて、かけつけたスタッフの彼女はまにあわなかった。僕は、お通夜に 向かう飛行機と列車にのりつぎながら、空虚な思いにとらわれた。まるで福永の「死の島」のような、なんともいえぬ、長いこころのおきどころのない時間がそ こにはあった。一年ほど前、お目にかかっているからなおさらなのだろう。元気な姿だけしか想像できないから余計、悲しみが空気のあいだをさまよっているよ うなそんな感じだった。

ジェイムズ・P・ホーガンが亡くなった。ツィッターでMITの石井教授のことばで知った。SF界の巨匠だ。数年前に亡くなったアーサー・C・クラー クと並び、未来世界を描くには、欠かせぬ人だった。十余年前になるだろうか、ホーガン氏を取材で訪ねたことがある。マイアミにほどちかい、ペンサーコーラ という田舎町にのんびりと暮らしていた、いいおじさんだった。かわいい3人のこどもたちと奥さまとそれはそれは素敵な家庭で、取材陣とご家族みんなで食事 をしたのをおぼえている。

僕が彼の作品の中でいちばん気に入っていたのは、「断絶への航海」という作品。原題は、voyage to yesteryear ・・・素晴らしいタイトルだ。未来の惑星を探検隊が訪ねると、そこは人々のこころの中に「疑い」という概念が忘却された、まさに理 想ともいえる国家だった。探検隊員の「市場原理」に基づいた善と悪のバランスで判断する感覚が、善しかない理想国家の国民とのあいだに次第にきしみを生じ させる。一方で、まさに「理想国家」に接した探検隊員自身が、正常な感覚とは何かという葛藤をもつにいたり、自己崩壊する者が続出するスパイラルがはじま る。「理想」を是としながらも、こころのどこかでは、それをすべては真として受け入れることはできない人間のパラドックス。私たち自身のもつ矛盾した感覚 を見事に描きだした未来小説のお手本のような作品だ。この作品について随分と遅くまで語り合ったのが、つい昨日のことのようだ。そのとき、彼と僕がテーブ ルのどの席に座って、どのように話していたか、そんな光景までもがいまでも思い出される。

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