2010年11月22日月曜日

電子書籍奮戦記  萩野正昭(ボイジャー)

ボイジャーの萩野正昭さんの「電子書籍奮戦記」が新潮社から発売になった。発売日に早速読み始めたのだけれど、とてつもなく感動的な本だった。
もちろん、それは僕が萩野さんを存じ上げていることもあるし、そこに登場するレーザー・ディスクのことや、登場する当時のMITにたまたま番組で取材に いっていたこと、最初のマルチメディアコンテンツの「ベートーベン第九交響曲」の日本語版をつくるにあたって翻訳をお手伝いしたことなど、記憶に残ること がたくさんあるからなのだけれど、それにしても萩野さんの一途な思いと、等身大の経営哲学、その一貫性などが、いまの社会に明らかに足りない「理念」みた いなものが見事に貫かれているからで、読みすすむにしたがって、忘れていた清々しい気持ちにとらわれる自分を発見したのだった。

電子書籍奮戦記
萩野正昭


1 てんやわんやの毎日
どの視点に立つか?
インターネットの歴史
小さなものためのメディア
電子書籍とは
市場規模を見る
馬車と自動車
電子書籍を成り立たせるためのもの
電子書籍の流通とは
ボイジャー

2 異聞マルチメディア誕生記
ボブ・スタインからの電話
映画がはじめて本になるかもしれない
「ちょっと普通じゃないね」
ある夜のパーティー
エキスパンドシネマ
レーザーディスクの可能性

3 メディアを我々の手に
東映教育映画部
時間よ止まれ
パイオニア
吟遊詩人たる決意
へんてこりんなもの
ハイパーカード登場
砂の上の館
マルチメディア史に残る運命的出会い
電子書籍の誕生
振り返るとき
飛び降りる覚悟

4 本ではなく、読むを送る
ボイジャー・ジャパンの船出
テキストが最前線
日本語エキスパンドブック
新潮文庫の100冊
アリーンの思い出
本とコンピュータ
すべてがみんな飯の種
青空文庫誕生
無給社外スタッフを組織する
「必要性」が本を生み出す
「本」ではなく、「読む」を送るんだ
「電子文庫パブリ」「理想書店」開店
無駄にした一年
体質改善

5 ハードに翻弄される
侮っていた携帯電話
しかし・・
次々現れる電子書籍端末に翻弄される
きな粉とぼた餅
電子出版の哲学
視覚障碍者に学ぶ

6 電子出版の未来
インターネット・アーカイブ
ノー・アマゾン、ノー・アップル、ノー・グーグル
覇権主義に対抗する
たどり着いた相手先
フォーマット統一とボイジャーの課題
「映画と本が一緒になる」の到達点
本は自由なメディア

書籍とは、私たちに欠かせぬものであり、それは、紙か紙でないかということではなく、あくまで「読む」という行為なのだということを、あらためて思いいたる。

しかし、何より萩野さんが、いちずに夢をきちんと見ているというところに、無性に魅かれるのだ。絶頂期のレーザー・ディスク社をやめ、ボイジャーを 起こし、そして苦節の時間がありながらも、しかし一度も大切な何かを見失うことなくここまでやってきたその彼の精神の崇高さ・・それでいていつ出会っても 情熱的で、いつもの彼の文体で飾らずに語りかけてくれる萩野さんを思い浮かべ、ただの美談ではない、謙虚で等身大の人間の尊さに深い感動を覚える。本来の 起業家精神のまさに神髄がここにある。

まだまだボイジャーの新しい地平の苦労はつづくかもしれないが、ひとまず、この半世紀が書けるところまできたボイジャーの歴史に「よかったね」と声をかけたくなった。

つづきはこちら↓

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