TAKE6も、マンハッタン・トランスファーもインタビューでよく影響をうけたアーティストとしてシンガーズ・アンリミテッドをあげている。確かに シンガーズ・アンリミテッドがいなかったら、いまの彼らを想像するのは難しい・・と思われるほど、ア・カペラのすべての試みがすでに、シンガーズ・アンリ ミテッドによってなされているといってもいい。
テイク6が、生身の人間を尊重した、まさにライヴならではのグループとすると、シンガーズ・アンリミテッドは決してライヴをしなかった。レコーディ ング専門のグループだ。それゆえのある種のピュアーな突き詰めた緊張感が、彼らのすべてのアルバムにある。それにしても彼らのア・カペラのアレンジは見事 なのだが、今回はまず、貴重なオーケストラとのアルバムの方ををとりあげてみようと思う。
EVENTIDE
THE SINGERS UNLIMITED
(ROBERT FAMON : ORCHESTRA ARRANGED AND COND.)
シンガーズ・アンリミテッド 愛のフィーリング
1:ディープ・パープル DEEP PURPLE
2:G線上のアリア AIR
3:プット・ユア・ドリームズ・アウェイ PUT YOUR DREAMS AWAY
4:アイ・ラヴド・ユー I LOVED YOU
5:夜の静けさに IN THE STILL OF THE NIGHT
6:モナ・リザ MONA LISA
7:愛のフィーリング FEELINGS
8:サティ:ジムノペディ Ⅰ GYUMNOPEDIES Ⅰ
9:ユアーズ・トルーリー・ローザ YOURS TRULY ROSA
10:ハウ・ビューテイフル・イズ・ナイト HOW BEAUTIFUL IS NIGHT
11:イーヴンタイド EVENTIDE
このアルバムは、最初の1曲目から、もちろん文句なしなのだが、2曲目のG線上のアリアといい、4曲目のアイ・ラヴド・ユーなどクラシックな空気の アレンジが絶妙。特にオーケストラのありようとのバランスが素晴らしく、つい聞き惚れてしまう。シンガーズ・アンリミテッドは数あるコーラス・グループの中でもきわめて特異な存在である。特異な点を列挙してみよう。
まず彼らはレコーディング専門のグループであって、ライヴ活動を行わなかった。と、過去形で書いてしまっていいのかどうか。正式な解散宣言が出されたわけ ではないが、この10年間というもの、まったくの音沙汰なしなので、もはや自然消滅したものと考えていいだろう。
次に彼らはジャズ/コーラスとしてはきわめて異例のア・カペラ(無伴奏コーラス)に挑戦。独自の世界を確立した。またテクノロジーの有効活用(多重録音) という点でも、素晴らしい成果をあげた。ア・カペラにしても多重録音にしても、別に彼らが最初に始めたわけではない。ゴスペルやR&Bの世界で ア・カペラは昔から行われていたし、多重録音についていえば、彼らより20年以上も前にレス・ポールがギターでやってのけている。しかし、それをジャズ・ コーラスの世界に移植した彼らの功績は絶大だ。(中略)なぜ、シンガーズ・アンリミテッドがア・カペラと多重録音のチャンピオンになったかという点について、思いを巡らせてみる。自然の成り行きだったの ではないかというのが僕の結論だ。それは結成時のグループ状態と大いに関係している。そこのところを若干説明してみよう。
シンガーズ・アンリミテッドのリーダーはジーン・ピュアリングで、彼は1929年3月31日、ウィスコンシン州のミルウォーキーに生まれた。根っからの コーラス好きで、17歳の時にダブル・デイターズというユーモラスな名前のコーラス・グループを結成している。その後、53年にLAで男性4人組のハイ・ ローズを結成。これで有名になった。ハイ・ローズは60年代にかけて多くの録音を行い、フォー・フレッシュメンに次ぐ人気グループだったが、64年に解 散。そして3年後の67年にハイ・ローズ時代後期の同僚であるドン・シェルトン、それにレン・ドレスラー、ボニー・ハーマンを誘ってシカゴで結成したのが シンガーズ・アンリミテッドだったのである。ちなみにボニーの母親は、元ローレンス・ウエルク楽団の歌手ジュールズ・ハーマン。
結成は67年だが、デビュー・アルバムを録音するのは4年後の71年で、その間、彼らは一体なにをしていたか。普通のグループならライヴ活動ということに なるのだが、前述したようにこのグループはライヴを一切やらないのが特徴。ここがポイントである。つまり彼らはシカゴでせっせとスタジオ・ワークをこなし ていたのである。どういう仕事かというと、放送用のジングルやCM。昨今の日本だと、CFのバックに流れるタイム・ファイヴのコーラスをしょっちゅう耳に するが、ああいうのをやっていたのである。
そうしたスタジオ・ワークで会得したノウハウがア・カペラであり、多重録音だったわけだ。さきほど、自然の成り行きといったのはまさにこの点である。ビー トルズの「フール・オン・ザ・ヒル」をピュアリングがアレンジしてア・カペラのデモテープを作成。それがオスカー・ピーターソンの手に渡ってレコード・デ ビューに至ったという経過も、こうした背景を考えれば、当然という気がする。彼らがコマーシャルな仕事に従事していたころの話はほとんど耳にしないが、実 はこの時期にグループの個性は形作られた。だから、その当時のジングルやCMを集めたアルバムなんてのが登場したら、これは絶対面白いだろうと思う。
つづきはこちら↓
http://bit.ly/9VUKwB
0 件のコメント:
コメントを投稿